事例紹介

2025.04.21
  • 不動産登記

離婚による財産分与登記について

はじめに

弊所でも離婚に伴う不動産の名義変更のご依頼をいただきますが、名義変更の前提としてクリアされる点がいくつかありますので、既に離婚をされている(離婚届を役所に提出されている)方、及びこれから離婚を予定されている方へご参考となればと思い、そのポイントをご説明させていただきます。

まず、離婚による財産分与は次のような性質に分類されます。

・夫婦の共有財産を分ける「清算的財産分与」

・一方当事者の離婚後の生活を扶養するための「扶養的財産分与」

・慰謝料として支払う「慰謝料的財産分与」

 

実務では、上記3種類のうち清算的財産分与、すなわち夫婦が婚姻中に協力して蓄えた財産を離婚により清算することが最も多いので、本コラムでもこの清算的財産分与を前提にご説明したいと思います。

離婚による財産分与請求権の除籍期間

財産分与の手続としては、次のようなものがあります。

  1. 協議による財産分与
  2. 調停・審判による財産分与

財産分与の請求期間は、離婚の時から2年以内です(民法7682項但書)。この2年は、時効期間でなく除斥期間(じょせききかん)とされています。除斥期間とは、法律関係を速やかに確定させるため、一定期間の経過によって権利を消滅させる制度です。したがって、調停・審判は離婚後2年以内に行わなければ、除斥期間により権利行使はできなくなりますので、注意が必要です。

確定した財産分与請求権の消滅時効

財産分与の調停や審判、判決によって確定した権利・請求権、すなわち、財産分与に基づく金銭の支払い請求権や財産の移転請求権などは、それぞれ、消滅時効の適用を受けることになります。時効期間は、確定の時から10年(民法1691項)です。

合意による協議

財産分与の請求期限である2年経過後であっても、当事者双方が財産分与をすることに合意をしているのであれば、財産分与をすることが可能です。民法7682項では財産分与の期限を定めていますが、これは「家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求する」場合の期限です。つまり、当事者同士の合意の上、財産分与をする場合には、2年経過後であっても法律上制限されることはありません。ただし、財産分与請求期限(2年)経過後ですと、財産分与を請求された側としては財産分与に応じるメリットがありませんので、よほどの事情がない限りは現実的に財産分与に応じてもらうのは難しいといえます。

譲渡所得税

自宅などの不動産を財産分与しますと、財産分与した側に「譲渡所得税」がかかる可能性があります。譲渡所得税とは、不動産を譲渡したときに得られた利益に対してかかる税金です。離婚に伴う財産分与により資産を分与した者は、財産の分与義務の消滅という経済的利益を対価として資産の譲渡を行ったものとみなされます。分与した側からすると金銭を得ていないので、なんだか釈然としませんが、法律的にはそのような理論になっています。

 

譲渡所得税の計算は、譲渡によって得た利益を「譲渡所得」として、譲渡所得に定められた税率を掛け算すれば譲渡所得税が計算されます。

譲渡所得=不動産の譲渡価額(不動産の取得費用+譲渡にかかった経費)

※財産分与の場合、譲渡価格の部分が分与した時の土地や建物などの時価となります。

※譲渡所得税が発生しますと、住民税もかかります。

※時価が取得費用より下がっている場合には、譲渡所得税はかかりません。

 

 参考(国税庁HP

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3114.htm

譲渡所得税が控除される特例

対象物件が居住用不動産の場合、譲渡所得が3000万円以下のケースでは「居住用不動産の譲渡にかかる3000万円の控除特例」を適用すれば、譲渡所得税がかからない場合があります(諸条件あり)。ただしこの特例を適用するには、譲渡する相手が親族でないことが必要です。そのため、離婚前に所有名義を変更しますと、親族への譲渡と判断されて特例を適用できない可能性が高くなりますので、不動産の財産分与を行うのであれば離婚届の受理後に名義変更を行うのがおすすめです。

 

※3000万円の特別控除の要件について詳しくは国税庁のHPをご参考ください

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm

贈与税・不動産取得税

清算的財産分与の場合は基本的に贈与税および不動産取得税はかかりません。

 

参考(国税庁HP

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4414.htm

ローン返済中の場合

名義変更時点で返済中のローンがある場合は、事前のご相談なく名義変更されますと最悪の場合、一括返済を求められる可能性がありますので、事前に金融機関窓口へご連絡されることをおすすめします。

おわりに

離婚による財産分与登記にあたっては、登記の後に思わぬ出費が発生する等の事態を避けるため、事前に確認しておくべきポイントがありますので、詳しい専門家へご相談されることをおすすめいたします。

(文責:村上)