事例紹介

2025.12.15
  • 不動産登記

売買契約から10年経過している買戻特約登記の単独抹消

はじめに

弊所にて相続登記を受任し登記情報を確認した際に、古い買戻権がそのまま残っていることがあります。具体的には、被相続人が住宅供給公社や都市再生機構などの公的な機関から宅地や集合住宅の分譲を買い受けたケースです。

買戻特約とは

不動産売買において売主と買主は、「売主は、売買代金及び契約の費用を返還すれば、売買の解除をすることができる」との特約をつけることができます(民法579条)。 この特約を「買戻しの特約(買戻特約)」といい、買戻特約に基づく解除権を「買戻権」といいます。

県の住宅供給公社などが行う宅地分譲は、自らが居宅を建ててそこに住みたいという方のために行うものです。そこで、売買契約に「買主は、購入後一定期間は本件土地を売却(転売)してはならない」といった約定をつけることで、これを守らなかった場合は、売主である住宅供給公社が売買契約を解除して物件を買い戻すことができることとする、というものです。

買戻期間が満了しても抹消されない買戻権

実際には期間が満了したとしても、転居していたため売主からの抹消書類が届かなかったり、抹消書類が届いたとしても放置してしまったりと、期間が経過した買戻特約の登記が残ったままの登記簿が多くあります。

時間が経過してしまうと、買戻権者の登記済証(登記識別情報)や印鑑証明書といった必要書類を取り寄せたくとも相手法人の組織が変わっていたり、紛失した書類の再発行依頼が必要であったりと、手続きにかなりの時間と手間がかかります。

こうした背景をもとに、令和5年4月1日、不動産登記法第69条の2の規定による単独抹消が可能になりました。買戻し特約が付された売買の日から10年が経過している場合は、登記権利者である所有者が、単独で抹消登記できるというものです。登記原因は「不動産登記法第69条の2の規定による抹消」で、登記原因証明情報の提供不要、効力発生日付の記載も不要です。司法書士へ手続きを依頼する場合は委任状のみで登記ができます。

登記のポイント

・権利者(所有者)に相続が発生している場合には前提として相続登記が必要となります。

・登記原因日付の記載は不要です。

・義務者(買戻権者)に権利承継による住所・名称変更等があった場合でも変更登記は不要であり、登記簿上の住所・名称を記載します(代表者に関する記載は不要)。

・登記原因証明情報の添付は不要です。

おわりに

弊所で相続登記を受任時、登記情報を確認した際に、生前にこの買戻権を抹消している方はいらっしゃらず、相続登記ご依頼時に判明し抹消のご依頼をいただいています。買戻し期間が経過しても自動的に買戻権の登記は消えませんので、買戻し期間を経過した買戻権が見つかった場合はそのタイミングで抹消されることをお薦めします。ご自身でお手続きが不安な方は是非神楽坂法務合同事務所へお任せください。

(文責:村上)