事例紹介

2026.02.27
  • 相続

遺産分割協議による登記手続き中に相続人の一人が非協力的となった場合

はじめに

令和6年4月から相続登記が義務化されました。価値が低いため売却も厳しく、固定資産税も少額だからと、放置していた不動産でも、相続登記をしないと、10万円以下の過料に処せられるということで、相続人の代表者がはたらきかけて遺産分割協議をまとめ弊所に相続登記を依頼される、というケースがあります。

遺産分割協議による相続登記の場合、司法書士は通常、どなたが不動産を取得されるか決まっている段階で受任しますので、協議内容について相続人全員の合意形成ができていることをご依頼者様に確認して手続きを進めます。

ところが、遺産分割協議書を作成し、相続人全員へ署名押印のため送付したところ、手続きに協力しないと言われることがあります。事情は様々ですが、一人だけでも協力を欠きますと、相続登記ができないため、その他の相続人は相続登記の義務を果たすことができず困ってしまいます。

3年の期限内に相続登記ができない場合に過料の制裁を免れる方法はあるのか

不動産の相続を知ってから3年以内に相続登記の申請ができない場合に、相続登記の懈怠による過料の制裁を免れる手段として相続人申告登記があります。

相続人申告登記とは

相続人申告登記は、令和6年4月に相続登記が義務化されたことに伴い創設された制度です。
義務化されたものの、相続人の確定に時間がかかる、連絡の取れない相続人がいる、遺産分割協議がまとまらない等の事情により、相続登記の期限内(3年以内)に、法務局へ相続登記の申請をすることが難しいケースもあります。そういった場合に簡易に相続登記の申請義務を履行できるようにする仕組みとして設けられました。

相続人申告登記は、法定相続人の範囲や法定相続分の割合を確定する必要はなく、単独で法務局へ手続きすることができるため、相続登記と異なり、相続人各人が、他の相続人の協力を得られなくともできる手続きです。

(参考:法務省HP
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00602.html

相続人申告登記の注意点

相続人申告登記をすることにより、過料の制裁を免れることはできますが、「相続登記をした」ことにはならないため、そのまま放置することについては以下のような注意点があります。

・相続した不動産を売却したり、抵当権の設定をしたりすることができません。その場合は、別途、相続登記の申請をする必要があります。

・法定相続人間で遺産分割が成立した場合は、遺産分割協議日から3年以内に、別途、遺産分割に基づく相続登記を申請する必要があります。

・遺産分割協議の結果、申出人がその不動産を相続しないことになったとしても、相続人申告登記をした際の申出人の住所と氏名は不動産登記簿に残ってしまいます(登記情報は誰でも閲覧が可能ですので、不動産業者から営業の電話やダイレクトメールがきたりする可能性もあります)。

 ・相続人申告登記をしたままで、相続登記を放置してしまうと、次の相続が発生したときに、数次相続となってしまうので、更に遺産分割協議が成立しにくくなってしまいます。

 ※たとえば、登記簿上の所有者が祖父で、申出人として父が記載されている場合に、父が亡くなったときは、登記名義人である祖父を被相続人とする相続登記をしなければなりません。そこで、被相続人から父、父からその子供へと、三世代にわたる戸籍謄本を調査して相続人を確定したうえで、遺産分割協議をしなければならないということになります。

このように、非協力的な相続人がいる場合に、暫定的に申告登記をすることは可能ですが、相続人申告登記をしたままで、相続登記を放置してしまっていいということにはなりません。遺産分割協議がまとまるまで、時間の猶予を得たという認識でいる必要があります。

法定相続分による相続登記

遺産分割によらず、法定相続分に従って相続登記をすることは、「保存行為」として法定相続人の一人からでも申請が可能です。

しかし、申請人以外の相続人へ登記識別情報が交付されない(将来売却の際に本人確認情報の作成等が必要となる)ことや、売却の際に非協力者も含めての共有者全員の合意形成と手続きへの協力が必要になる、次の相続が生じた際にどんどん共有者が増えていくことにより権利関係が複雑化する、登録免許税がかかる(相続人申告登記は非課税)、といったデメリットが大きいためおすすめしません。

どうしても協力してもらえない場合

当事者の働きかけだけではいつまでたっても遺産分割協議に応じてもらえない場合は、弁護士に間に入ってもらい話し合いを試みる、それでも話し合いがまとまらない場合は、遺産分割調停・審判という家庭裁判所の手続きを利用することができます。

審判では、相手方が話し合いに応じようとしない場合であっても、裁判官の判断によって遺産分割をすることができます。その場合は調停調書(審判の場合は審判書+確定証明書)により相手方の協力がなくとも相続登記をすることが可能となります。

おわりに

以上のように、相続登記をしないままにしておくことは、相続人どなたにとっても得策ではありません。

業務をおこなう中で、ご依頼者様から「前に話したときは協力してくれると言っていたのに、急に連絡が取れなくなりました(電話やメールをしても返信してくれない)」といったご連絡や、協力してくれる予定だった相続人から「私は送られてきた遺産分割協議書の内容に合意していません」といったご連絡をいただき、手続きが途中で止まることがあります。そうなりますと「このままだとどうなるのか?」「この先どうすればいいのか?」と皆様ご心配になられます。

そういったとき、どのような方法や注意点があるのかを知ったうえで相手の方へ丁寧に説明をすることで、理解し協力してくれる可能性が高まるのではないかと思い筆を執らせていただきました。ご参考となれば幸いです。

(文責:村上)