事例紹介

2024.09.03
  • 相続
  • 相続コラム

相続人全員が相続放棄した場合

はじめに

相続人の全員が相続放棄をして相続人がいなくなった場合、その方の財産はどうなるのでしょうか?
簡単に結論から申し上げますと、利害関係人によりまず家庭裁判所に「相続財産清算人」の申立てがされ、家庭裁判所にその選任をしてもらい、債権者を探して弁済がなされ、特別縁故者がいればその人に財産を分与し、最終的に残った財産は国庫へ帰属します。 ただし、最終的に残った財産が共有財産であった場合については、国庫には帰属せずに、他の共有者に帰属します。

相続財産に対する管理義務

それでは、相続放棄をしてから相続財産清算人が選任されるまではいかがでしょうか。相続を放棄した人に課される財産の管理義務は民法940条に規定されています。相続財産清算人が遺産の管理を始めるまで、そもそもの相続人は相続財産を自分の財産と同じように管理しなければなりません。それまでは、「財産は放棄するので自分には関係ない」とすることはできないわけです。ただし2023年4月から施行されている現行の民法では「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは」という一文が明記されています。

民法940条 第1項

相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

相続放棄前後の相続財産の処分に注意

相続財産清算人が選任され、管理が開始するまでの間に、管理義務を負う者が適切な管理をせずに財産が毀損されると、債権者による債権回収ができない、受遺者に財産が渡らないなどの損害が出てしまう恐れがあります。また、家などを管理せず、庭木が倒れて隣人宅に損害が出た場合などに、損害を受けた第三者から損害賠償を請求される可能性があります。

そのようなケースでは、なるべく早く家を処分しなくてはと考えがちですが、財産を勝手に処分してしまった場合「単純承認」が成立し、相続放棄ができなくなりますので、焦って財産の処分をしないように注意が必要です。また、部屋内の残置物(遺品)について勝手に処分した場合も同様です。相続財産の「処分」に該当し単純承認したとみなされてしまう可能性があります。

相続財産清算人とは

相続財産清算人とは、被相続人に相続人がいない場合や相続人全員が相続放棄をして相続人がいなくなった場合に、相続財産を管理したり清算したりして、最終的に残った財産を国庫に帰属させる職務を行う人のことです。民法上、ある人が亡くなったものの、その人に相続人がいることが明らかでないときは、亡くなった人の財産は法人とみなされます(民法951条)。そのため、相続財産清算人は、その法人の代表者として、残った財産を国庫に帰属させるまでの職務を行うことになります。

相続財産清算人選任の申立人

・利害関係人

被相続人の債権者、特定遺贈を受けた者、特別縁故者、相続財産を管理する人(相続放棄をしたが現に不動産を占有しているため管理義務の残る相続人も含まれる)、相続財産の共有持分権利者など

・検察官(国が相続財産清算人を必要とする場合)

相続財産清算人は誰がなるのか

相続財産清算人になるのに資格は必要ありませんが、被相続人との関係や利害関係の有無等を考慮して相続財産を清算するのに適任と認められる人を家庭裁判所が選任します。弁護士、司法書士など、法律の専門家の中から選ばれるのが一般的です。申立人が候補者を立てることもできますが、選任するのはあくまで家庭裁判所なので、必ず候補者が選ばれるとは限りません。

申立て費用

申立て費用は、収入印紙800円分、連絡用の郵便切手(申立てをする家庭裁判所へ確認します)、官報公告料5075円です。また、予納金が必要な場合があります(次の項目参照)。

予納金について

相続財産が少なく、相続財産清算人の報酬など財産の清算に必要な費用が支払えない場合は、それらの金額を「予納金」として家庭裁判所に納めなければならない場合があります。予納金は数十万円から100万円程度必要とされ、申立人が負担します。ただし、相続財産から相続財産清算人の報酬を支払うことができれば、予納金は返還されます。

おわりに

相続人全員が相続放棄した場合、法律上は上記の手順を踏んで被相続人の財産は最終的に国庫へ帰属しますが、あくまでも利害関係人による「相続清算人選任」の申立てがなされてのことであり、誰も選任を申し立てなければ放置された土地建物の荒廃により地主や近隣住民等が迷惑を被ったりして所謂空き家問題に発展する可能性は否定できません。そうならないためにも、疎遠相続の可能性がある場合は生存中に遺言書を作成し、財産の行方(例えばお世話になった法人や団体へ寄付する等)と遺言執行者を指定しておくという対策は非常に意味のあることと思います。ご検討される際は是非当事務所へご相談ください。

(文責:村上)