事例紹介

2026.07.15
  • 後見、信託

はじめての後見制度 ~成年後見制度ですべて解決するわけではありません~

はじめに

成年後見制度について調べていると、

「後見人がいれば、本人に代わって何でもできるようになる。」
「困ったことはすべて成年後見制度で解決できる。」

そのようなイメージを持たれる方も少なくありません。しかし、成年後見制度は本人の財産や権利を守るための制度(本人保護の制度)であり、法律によって後見人の権限や役割が定められています。そのため、できることもあれば、制度上できないこともあります。今回は、成年後見制度の役割を正しく理解していただくために、「できること」と「できないこと」を、実際によくあるご相談を交えながらご紹介します。

① 成年後見制度の目的は「本人を守ること」

成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が不十分になった方の財産や権利を守ることを目的とした制度です。

後見人には、大きく分けて二つの役割があります。

一つは、預貯金や不動産などを適切に管理する財産管理。

もう一つは、介護サービスや施設入所契約など、安心して生活を送るための契約を支援する身上監護です。

成年後見制度では、本人の自己決定権を尊重しながら、判断能力の不足を補うことが基本的な考え方となっています。

② 成年後見人には医療行為への同意権はありません

ご相談の中でも特に多いのが、
「後見人になれば、手術の同意もできますか?」
というご質問です。実は、成年後見人には、本人に代わって医療行為に同意する権限はありません。例えば、

  • 手術への同意
  • 延命治療の選択
  • 治療方針への同意

などは、成年後見人の権限には含まれていません。成年後見制度は財産管理や法律行為を支援する制度であり、医療同意については別の問題として取り扱われています。

③ 成年後見人の職務として身元保証人になることは予定されていません

病院への入院や介護施設への入所では、身元保証人を求められることがあります。
しかし、成年後見人の職務として身元保証人になることは予定されていません。

身元保証人には、

  • 入院費や施設利用料に関する責任
  • 緊急時の対応
  • 身柄の引取り

など、本人とは別の責任を負う場面があります。

成年後見制度と身元保証制度は、それぞれ目的が異なる制度であることを知っておきましょう。

④ 成年後見人が本人に代わって遺言書を作成することはできません

「後見人なら遺言書も作れるのでしょうか。」
このようなご相談もあります。答えはできません。

遺言は、ご本人の最終的な意思を表す大切な法律行為です。そのため、本人に遺言能力が認められる場合に限り、ご本人自身が作成することになります。成年後見人が本人に代わって遺言を作成することは認められていません。

⑤ 本人の財産は本人のために使うことが原則です

成年後見人が管理する財産は、あくまでも本人の財産です。そのため、

  • 家族へ財産を贈与する
  • 相続対策のために財産を移転する
  • 家族の生活費として利用する

といったことは、原則として認められていません。後見人には、常に本人の利益を最優先に財産を管理する義務があります。一方で、本人がこれまで扶養していたご家族の生活費など、本人の利益や生活状況、これまでの生活実態などを踏まえ、支出が認められる場合もあります。財産管理の判断に迷う場合には、家庭裁判所への報告や相談が必要になることもあります。

⑥ 成年後見制度は相続対策を目的とした制度ではありません

「生前贈与をして相続税対策をしたい。」
「将来の相続を考えて財産を整理したい。」

こうしたご相談をいただくこともあります。しかし、成年後見制度は相続対策や財産承継を目的とした制度ではありません。後見人は、本人の生活や療養、財産を守るために職務を行います。そのため、相続人の利益を目的として財産を処分したり、生前贈与を行ったりすることは、原則として後見人の権限には含まれていません。

成年後見制度では、常に「本人の利益になるかどうか」という視点で判断されます。

⑦ 成年後見制度だけでは対応できないこともあります

成年後見制度は、判断能力が低下した後の生活を支える、とても大切な制度です。一方で、

  • 判断能力が十分あるうちの見守り
  • 日常的な財産管理の支援
  • 将来に備えた契約
  • 亡くなった後の事務手続き

までをすべてカバーする制度ではありません。そのため実務では、

  • 任意後見契約
  • 見守り契約
  • 財産管理委任契約
  • 死後事務委任契約

などを組み合わせ、ご本人の状況に合わせた支援体制を整えることもあります。

成年後見制度は万能な制度ではありません。

だからこそ、それぞれの制度の特徴を理解し、ご本人に合った方法を選ぶことが大切です。

おわりに

成年後見制度は、本人の財産や権利を守るための重要な制度ですが、その役割には法律上の範囲があります。制度を正しく理解することで、「思っていたことと違った」という誤解や不安を防ぐことができます。

ご本人やご家族の状況によっては、成年後見制度だけではなく、任意後見やその他の契約を組み合わせることで、より安心できる支援体制を整えることも可能です。

大切なのは、制度そのものを選ぶことではなく、ご本人が安心して生活を続けられる方法を一緒に考えることではないでしょうか。

(文責:五味)